テキスタイルコラム-イヌとヒトの物語
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最終更新日:2022/06/17
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羊をめぐる冒険 vol 4
イヌと人の物語
テキスタイルから見た世界と言う副題から
大きく逸脱していることは自覚しつつ
こんかいは宣言済みなので
堂々とこころおきなく脱線して犬の話をします♪
メインテーマの羊よりも人類との関係が古く
そして人が牧畜を始めたときにも
大きな役割を果たすのがイヌです。
イヌの祖先
羊の祖先は野生のアジアムフロンと言う羊でした
犬の祖先は何か?
犬の祖先はやっぱりオオカミですか?

Rushikesh Deshmukh DOP, CC BY-SA 4.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0>, via Wikimedia Commons
犬は哺乳動物の食肉目イヌ科に属します
一言でイヌ科と言ってもキツネ・タヌキ・ジャッカル・ディンゴ・コヨーテ・オオカミなど色々な種類があります。
イヌ科の中で現在イヌ属に分類される7種(アメリカアカオオカミ種・タイリクオオカミ種・コヨーテ種・ヨコスジャッカル種・セグロジャッカル種・キンイロジャッカル種・アビシニアジャッカル種)の中のタイリクオオカミ(ハイイロオオカミ)種から13万5000年前に突然変異で誕生したのがイヌ(イエイヌ)と呼ばれる現在の犬の祖先であることが判っています。ちなみにイエイヌ以外のタイリクオオカミ(ハイイロオオカミ)種には30種類の亜種があり、日本で絶滅したとされるエゾオオカミやニホンオオカミもタイリクオオカミの亜種になります。現存するオオカミの中でタイリクオオカミの亜種であるインドオオカミがイエイヌに最も近い亜種であると考えられています。
イヌとオオカミの違い

GlacierNPS, CC BY 2.0 <https://creativecommons.org/licenses/by/2.0>, via Wikimedia Commons
オオカミから分かれたイヌにはもちろん、オオカミと共通する習性と異なる習性があります。遺伝子の変異から見てもオオカミは肉食、イヌは雑食で、人への慣れ易さにも遺伝的に見て大きな違いがあるそうです。解剖学的にも歯の大きさや硬さ、顎の力、足の位置、肉球の形状等に違いがあり、脳の大きさもオオカミの方が20%くらい大きいのだそうです。イヌは人に慣れ易く服従する性質がある反面あまり群れを組むことはしませんが、オオカミは群れ(ファミリー)で狩りや子育てを行い群れ内での行動はとても協調的なのだそうです。
イヌと同じようにオオカミの子を飼いならしてもイヌのように人には慣れないと言われるのもオオカミとイヌの遺伝的な違いに依るのかもしれません。
イヌは雑食?
13万5000年前に何故?人と親和性のあるイヌがオオカミから分化したのか…
もちろん人間と暮らすようになって後天的に獲得してきた形質もあるのでしょうが個人的にはこの遺伝的分化が起こるよりもかなり以前から人類とオオカミの間には何かしらの関係があったのではないかと勝手に妄想しています。
イヌは確かに肉が好きですが子供の頃に飼っていた雑種犬の毎日の餌は残った冷や飯に味噌汁+煮干しのトッピングだったし、人糞は食べるし、そう言えば近所のおばさんが畑で採ったキュウリを足元に置いて玄関先で井戸端会議をしていて家に入ろうとしたら‟あら、キュウリが無い!ついにボケたかと思っていたら一緒に居た飼い犬が話に夢中になっている間に食べちゃったのよ~“って、話していたのを思い出しました。きっとイヌは人と暮らしている間に何でも食べるように適応したのですね。
縄文犬と大神(オオカミ)

縄文犬の頭骨 ネスナド, CC BY 4.0 <https://creativecommons.org/licenses/by/4.0>, via Wikimedia Commons
日本各地の縄文の遺跡から縄文犬の骨が見つかっていると聞いたとき、縄文人がオオカミを飼いならしていたのかな?…と勝手に思っていたのですが調べて行くとオオカミと縄文犬は別なのだという事を知りました。どういう事かと言うとイヌがオオカミから分かれて進化した動物であることは間違いないのですが、かつて日本に生息していたニホンオオカミやエゾオオカミとは別の亜種のオオカミから分化したイエイヌと言う系統の亜種が現在世界中にいる多種多様な犬種の源になっていて、その中のひとつの系統のイヌの骨が縄文遺跡から発掘されている縄文犬と呼ばれる日本犬の祖先にあたります。縄文犬の骨は縄文前期の遺跡からも中期・後期の遺跡からも見つかっていて、現在の日本犬よりも体が大きく柴犬や北海道犬、琉球犬などがその特徴を受け継いでいると言われ、中国や韓国の古代犬とも似た特徴があることから縄文人の祖先と一緒にアジア大陸経由で日本にやってきたイヌと考えられています。

琉球犬 琉球マイク, CC BY-SA 3.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0>, via Wikimedia Commons
一方で野生のオオカミは古くから聖獣として神格化されて猪や鹿から作物を守り、人語を理解する信仰・崇拝の対象として大神・大口真神・御神犬等と呼ばれ神社の眷属として祀られて来ました。東京近郊で眷属としてオオカミを祀っている神社としては武蔵御岳神社の「大口真神」や「産立の絵馬」で有名な秩父三峯神社が知られています。
日本のイヌとオオカミまとめ

ABCymta, CC BY-SA 4.0 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0>, via Wikimedia Commons
およそ10万年前に東アフリカを出たホモサピエンスが南アジア沿岸を経由して一部はヨーロッパ方面へ別のグループはシベリヤを経由して凍ったベーリング海を越えて北米大陸・南米大陸へと移動・拡散してゆく過程で、北方から南下してきたオオカミやオオカミから分化したイエイヌの祖先たちと出会います。最終氷期の極寒の条件下でイヌを伴侶とした縄文人の祖先達はシベリヤから南下して日本列島で縄文文化を築きました。別のグループはベーリング海峡を渡ってアラスカイヌイットとなり、更に別のグループは南米大陸にまで移動していきます。最初に人とイヌが出会って生活を共にするようになったのは揚子江の南部地域であるという説が現在では有力です。ホモサピエンスが他の大型類人猿との競争に勝ち残り人類としての地位を確立して行く過程でイヌと出会いが大きな役割を果たしたのではないかと言う考えに個人的にはとても共感します。一方で日本列島に渡ったニホンオオカミやエゾオオカミの祖先も高い能力を持った近寄り難い野生動物としての存在が惧れと畏敬の対象として神格化される存在となって行ったと言うのが今のところ私がたどり着いたイメージです。
今回主に参考にさせていただいたのは下記の書籍です。
「ヒト、犬に会う」島泰三著
動物行動学者のコンラートローレンツ博士が著した動物行動学の名著「人 イヌにあう」と書名が似ていて混乱するかもしれませんがこちらもイヌと人の関係について書かれた名著だと思います。
ちょっとした脇道のつもりがすでに長くなっていますが
ここで止める訳にはいかないので
テキスタイルコラム-羊をめぐる冒険は犬編はⅡに続きます(笑)
では~

TAKIZAWA
生地のことなら何でもお聞きください。趣味がトレッキングや山登りなので、アウトドアウェアにもちょっとだけ詳しいです。「テキスタイルコラム-Textileから見た世界」を担当しています。私のミッションは失われつつある美しい地球環境を500年後の子孫に残すこと…誇大妄想Innovatorです(笑)

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