テキスタイルコラム-羊毛を効率的に収穫する方法

羊をめぐる冒険 vol 8

羊毛を効率的に収穫する方法

羊がどのような動物で

どのようにして家畜化されたのか?

ヒツジより沢山の道草を食い

想像と妄想を交えて書いています。

 

ここまでの経緯に興味のある方は

(たぶんいないけど…)

一応下記のリンクからご覧いただけます。

羊をめぐる冒険vol.1~vol.7

 

羊毛を効率的に収穫するには

およそ9500年前頃に始まった羊の牧畜は紀元前三千年頃には広範囲に広がっていました。異なる品種を生み出して品種間での交配や品種改良も進んでいたと考えられます。その頃になると、人々は二次的な産物であったウール(羊毛)の虜になっていたに違いありません。理想的な形質を持った羊を選んで交配を人為的の繰り返すことによって、柔らかくて沢山の羊毛を持った羊が出現することで、より効率的に羊毛を収穫することが求められるようになる一方で、改良が進んだヒツジは本来備えていた季節の変化に合わせて毛が抜け変わる性質を失って行きます。この変化が偶然に拠るものなのか、人為的にコントロールした結果なのかははっきりしていませんが、自然発生的に出現した形質を人為的に選別して交配を繰り返すことで人にとって都合の良い性質を固定させて来たことだけは確かだと思われます。

 

羊の毛を刈る必要性

羊の最も代表的なメリノ種は、品種改良によって細くて・柔らかく・繊維長の長い良質なウールが得られることから世界で最も多く飼われている羊ですが、自力で古い羊毛を脱ぎ捨てる能力を完全に失ってしまいました。ニュージーランドのメリノ羊シュレックは6年間、群れから離れて洞窟で暮らし、発見された時には27kgの羊毛を身にまとっていたことで世界的に有名になります。通常のメリノ羊からは年間3~4kgの羊毛が得られますがまさに6年以上分のウールを身に纏ったまま暮らしていたのです。そしてこのように人にとって都合よく改良された羊の毛を効率的に収穫するには1885年にハーバート・オースティン(1905年Austin Motor Company設立)によって電動毛刈り機が製造されるのを待たなければなりません。そして電動のバリカンが発明されるまでの長い期間、羊の毛刈りは毛刈り用の鋏と人の手によって行われて来たのです。

チャールズ・ネトルトン, パブリックドメイン, via Wikimedia Commons

チャールズ・ネトルトン, パブリックドメイン, via Wikimedia Commons

羊毛の収穫と鋏

もちろん全ての羊がメリノ種のように自力で古い羊毛を脱ぐ能力を失ったわけではなく、原種に近い羊は毎年暖かくなれば古い羊毛を脱ぎ、冬に備えて新しい毛が生えます。人が羊毛の利用を始めた当初は抜け落ちた羊毛を拾い集めて利用していたと思われますが、原種に近い羊でも自然に毛が抜け落ちる個体と中々抜けない羊がいて、拾い集める手間を省くために抜け落ちる前の羊毛を人の手によって引きはがして利用していたことも想像できます。自然に毛が抜け落ちない羊の方が羊毛を利用する上でメリットが大きければそうした個体を選んで繁殖を繰り返すことで毛の抜けにくい形質が固定して行ったことも考えられます。※現在でも原種に近い一部の品種ではルーイング(twitterの動画へリンク)と言う素手で羊からフリースを引きはがす方法が行われていて、「羊への負担が少ない」「羊毛の生産コストが安くつく」等の理由から新たな品種を生み出す開発も行われている

自力で毛が抜け変わらない羊が多くなると必然的に羊毛を効率的に収穫する為の道具が必要になり、鋏(はさみ)が毛刈りの道具として広く利用されるようになって行きます。鋏の起源は鉄器の利用が始まった紀元前1500年頃と言われていて、現存する最古の鋏は紀元前1000年頃にギリシャで造られたものだそうです。鋏みの起源と検索すると羊の毛刈りの用途で鋏が発明されたとあちこちに書かれているますが真実は謎ですね。いずれにしても羊の存在が鋏の発達に大きな影響を与えたことは間違いがなさそうです。

機械可読な作成者は提供されていません。Ytrottierが想定(著作権の主張に基づく)。, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

機械可読な作成者は提供されていません。Ytrotti

 

人と羊の物語

遊牧民や西洋では紀元前からウールを利用するという事が生活の中の一大事で、牧羊と羊毛の利用は生活と深く結びついています。1700年代に人口100万人の世界一都市江戸を擁した日本ですが、明治期以降に西洋からウールがもたらされた日本人が知らない面白いエピソードが沢山あるようです。そんな理由で次回は羊とウールの気になるエピソードについて触れてみたいと思います。

では~

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TAKIZAWA

テキスタイル課 課長株式会社クロップオザキ
テキスタイル担当のTAKIZAWAです。
生地のことなら何でもお聞きください。趣味がトレッキングや山登りなので、アウトドアウェアにもちょっとだけ詳しいです。「テキスタイルコラム-Textileから見た世界」を担当しています。私のミッションは失われつつある美しい地球環境を500年後の子孫に残すこと…誇大妄想Innovatorです(笑)

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