テキスタイルコラム-羊が牧畜に適していた6つの理由

羊をめぐる冒険  vol 6

やっと戻ってきました~

峠の我が家

およそ1万年前に肥沃な三日月地帯と呼ばれるメソポタミアの辺りで農耕と共に羊の家畜化が始まり、羊の家畜化にはどうやらイヌが深く関わっていたのではないか?と言う疑問から始まった脱線はイヌとヒトの関係がいつ頃どのようにして起きたのかと言う個人的妄想に発展したところでやっと落ち着いて無事に?戻って来ることが出来ました。妄想につき合って下さる方は「羊をめぐる冒険vol5ヒトとイヌとヒツジの関係」を見て下さい。

食肉利用としてはじまった羊の牧畜

家畜化された当初の羊の利用はそのほとんどが食糧としての肉や油、毛皮の利用であったと想像できます。なぜならムフロンの様な野生の羊の体表は硬いヘアーと呼ばれる分厚い毛で覆われていてその下に現在のウールと呼ばれるような柔らかく保温性のある毛が生えていますがその量はわずかで、ヘアーは硬くチクチクしていて衣類として利用するには適さなかったからです。今では最も重要な羊の生産物である羊毛の利用がほとんど無かったとしても当時は食糧としての羊の利用は重要で交易や移動、異文化の交流を通じて先史時代のヨーロッパや北アフリカ・アジアへと広がって行きました。

羊が牧畜に適していた6つの理由

現在では最も重要な産物である羊毛の利用がなかったにもかかわらず、羊の家畜利用がどうして広がって行ったのか?それは羊肉の食糧としての有用性にあわせて羊がとても家畜化し易い動物であった事が主な理由になると思われます。その理由を以下、簡単に解説します。

① 肉が美味しい                                  好みの問題もあるかと思いますが皆さまが認識されている通りと申しあげておきます。

② 多種類の草(牧草)を食べることが出来る                  より好みが少なく、多種類の牧草を食べることが出来るので飼料の調達がし易い。

③ 生育が早い                               主に食肉として利用する際に生育が早い動物の方が飼育の手間が少ない。現在の肉用羊では生育の早い物は4~5か月で50kg程に成長しラム肉として出荷が可能なことから考えても羊は成長の早い動物で、また山羊に比べて重要な栄養源であった脂質が多く取れることからも食用家畜として有用であったと考えられる。

④ 管理し易い                               羊は通常はおとなしく従順で鹿などの他の野生動物と比べてパニックを起こしにくく飼育管理がしやすい動物である。

⑤ 群れのリーダーがいる                          群れで生活する羊はグループの中にリーダーを持っているのでリーダーとなる羊を管理することで群れ全体の管理がしやすいと言う利点があった。

⑥ 一定の行動圏に執着する傾向が強い                     自然の状態でも自分たちの生活行動圏の中で世代をついで暮らす性質が強い羊は、イヌなどを活用することで容易に群れを集め、コントロールすることが出来る放牧が可能な動物であったことも羊の家畜としての有用性に大きく貢献していると思われます。

以上の様な理由で農耕と共に行われるようになった羊の牧畜は急速に人類の間に広がりました。人間の飼育による世代交代を繰り返す中で性格が温厚で扱いやすい個体や有用な特質を持った個体が繁殖に用いられ、想像以上に速いスピードで形質の変化が起こった事も羊が家畜として西洋文化の中で人類の衣食に重要な役割を果たすようになるための大きな要因であったと思われます。

羊毛利用の始まりは?

UnsplashのAnnieSpratt

現在、世界中に約10億頭の羊がいと言われています。メリノ種のように大型で沢山の羊毛を産出する品種からフランスのウェッサン島固有の最も小型の羊まで、雑種も含めて少なくとも1000種類以上の羊が南極大陸をのぞく大陸の砂漠から極寒の山脈にまで世界中に生息。その形態や色も様々だけれども、これらの全ての羊は人類が牧畜を始めた肥沃な三日月地帯から幾度にも渡って波のように世界に広がりながら現在の品種が形成された事が考古学遺跡や遺伝子解析の資料から判るのだそうです。人が羊を飼うようになった当初から毎年、同じ時季に自然に抜け変わる粗くて硬いヘアーや柔らかい下毛を拾い集めて利用していたのではないかと想像できますが、およそ紀元前5000年頃にこのメソポタミア・エジプト文明発祥の地から出て広まった羊たちはすでに下毛(ウール)が利用できるように改良されていて多くの現代の品種の元になった羊であることが、これも遺伝子解析によって判っているのだそうです。この間にどのような改良が行われて羊たちが現在の様に多くの下毛を持つことになったのか?どこまでが人為的に加えられた改良の結果なのか…という核心部分は謎に包まれたままです。いずれにしても人が利用しやすい形質(性質が穏やか・下毛が多い・色が白い…等々)を持った個体を人為的に選んで繰り返し交配させて来たことと、羊がとても適応力の強い生き物であることが大きな要因ではないかと思います。

残念ながらまだ続きます

やっと羊の毛の話にまで辿り着いたところですので

羊をめぐる冒険はまだまだ続きます。

ちなみに今回の内容は

サリー・クルサードさんの著書「羊の人類史」

かなり参考にさせていただいて書いています。

たぶんこれからもかなり参考にするので

原典に興味のある方はチェックしてみて下さい。

では~

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TAKIZAWA

テキスタイル課 課長株式会社クロップオザキ
テキスタイル担当のTAKIZAWAです。
生地のことなら何でもお聞きください。趣味がトレッキングや山登りなので、アウトドアウェアにもちょっとだけ詳しいです。「テキスタイルコラム-Textileから見た世界」を担当しています。私のミッションは失われつつある美しい地球環境を500年後の子孫に残すこと…誇大妄想Innovatorです(笑)

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